本日の話題:似て非なるもの(他人の空似)
「他人の空似」という慣用句がありますが、植物の世界でも、他人の空似で似て非なるものがたくさんあります。今日はその中から3つの組み合わせを紹介します。1.パイナップルとパイナップルリリー
パイナップルのなかまは南米が故郷です。果物として、世界中の熱帯地方で栽培されており、最近では台湾産の芯まで食べられる台農17号(金鑽鳳梨)が話題となりました。写真のレッドパイナップルは観賞用の品種で大温室のジャングルコーナーに植えています。
レッドパイナップル 令和3年5月26日 |
パイナップルリリーは南アフリカ原産のキジカクシ科(またはユリ科)の球根植物です。明治時代に園芸植物として導入されたときに、ホシオモトの和名が付けられましたが定着せず、今日では英名のパイナップルリリーで流通しています。花の進化園で7月ごろに花を楽しむことができます。
パイナップルリリー 令和元年7月9日撮影 |
2.シランとハラン
シランとハランは花がない時期に見ると、どちらも細長い葉で似ている植物です。シラン(紫蘭)は、東アジア原産の正真正銘のラン科の植物です。屋外で栽培できる丈夫なランで、切り花や薬草として重用されます。1年ほど前に執筆した今日の植物公園で、職員思い出の植物として紹介したこともありました。
シラン 令和2年5月12日撮影 |
ハラン(葉蘭)はラン科ではなく、キジカクシ科(またはユリ科)の植物です。図鑑では中国原産と書かれていることが多いですが、はっきりとした自生地が分からず、九州南部(南西諸島)原産の日本固有種とする説もあります。ハランには面白い用途があり、お弁当に入っている「バラン」の材料となっています。安価なプラスチック製のものが大半ですが、すし店や日本料理店などでは、職人によって飾り切りされた芸術品ともいえるバランを目にする機会もあります。
ハラン 令和3年5月26日撮影 |
ほかにも、和名にランがつく植物を探すと再現がないほど多くあります。スズラン、クンシラン、ヤブランなどラン科でないもの似て非なるものの類似点を探してみるのも面白いかもしれません。
ドイツスズラン 令和3年5月26日撮影 |
3.オカメヅタとオカメザサ
この2つはどちらも5文字でオカメがつき、5文字と似ていますが、見た目は全く異なります。
オカメヅタは北アフリカのカナリー諸島が原産地のウコギ科の植物で、別名でカナリーヅタとも呼ばれます。丈夫なので、建物周辺や中央分離帯の緑化などによく用いられています。大きな葉が丸顔で頬高なオカメの顔に似ていることから、オカメヅタの和名が付きました。
オカメヅタ(カナリーヅタ) 令和3年5月26日撮影 |
オカメザサは日本特産のイネ科の植物です。名前にササ(笹)とついており、草丈も低い種類ですが、本当は竹のなかまです。竹笹の分類は少しややこしい話なので、また機会を改めて紹介しましょう。
オカメザサ 令和3年5月26日撮影 |
さて、オカメザサの見た目はオカメには似ていません。こちらのオカメの由来は、東京の酉の市でこの竹にオカメの面を下げて売られていたことに因むそうです。オカメザサは繊維が細くてしなやかなことからササ籠づくりに用いられてきました。節の引っ掛かりが少ないので、脱衣籠に向いています。このような籠作りは、かつては農閑期の手仕事として身近な存在でした。広島でも、コシダ(シダ植物)を材料にしたシダ籠が大野地区(廿日市市)の特産品として有名で、海外にも輸出されていました。