植物よもやま話「カリン」
広島市植物公園ブログ
2018/12/09

植物よもやま話「カリン」

 植物よもやま話は、見どころ案内や花ごよみでは紹介しきれなかった園内の植物について、広報担当の職員が紹介するコラムです。不定期で更新する予定です。

 3回目の更新では、芝生広場の「カリン」を紹介します。

完熟して落下したカリンの果実 平成30年12月8日撮影

  • 和名:カリン
  • 別名:安蘭樹(あんらんじゅ)・カラナシ
  • 学名:Pseudocydonia sinensis (Thouin) C.K.Schneid.
  • 原産地:中国

  •  カリンは、中国原産のバラ科の落葉高木です。以前はボケ属(Chaenomeles)に含まれるとする分類が一般的でしたが、近年の分子系統解析の結果、1属1種のカリン属(Pseudocydonia)として整理されています。

    落葉したカリンと完熟した果実 平成30年12月8日撮影

     一見おいしそうな果実に見えますが、完熟しても硬くて生食できません。そのため、商業的な栽培はされず、庭園や寺社(安蘭樹という別名でよく表記されます)などに植えられています。果実は秋(11月ごろ)に完熟するのですが、収穫せずに放っておくと、落葉した木に「野球ボールほど」に実った様子がよく目立ちます。鳥も食べないようで、植物園では風で落ちた果実が子供のおもちゃになっています。

    カリンの花 平成30年4月10日撮影

     4月の半ばごろに咲く花は可憐で、十分に鑑賞に堪えます。剪定をしないと大きな木になりますが、適当に剪定をすれば、家庭の狭い庭でも十分に楽しめます。生食はできない実ですが、果実酒や砂糖漬けにすると家庭の常備薬になります。咳止めや疲労回復などの効能があると言われています。家庭果樹としてもう少し見直されてもよいように思います。

    カリン酒(漬けたばかりのもの)


    カリンのよもやま話


     さて、このカリンですが、よもやま話がいろいろあるので第3回の題材に選びました。実はカリンと呼ばれているものの中には、偽物がたくさん紛れています。

    1.木材としての「カリン」

    家具、細工物や三味線の胴に用いられる高級木材に「花櫚(カリン)」があります。このカリンはマメ科の植物で紫檀(シタン、ローズウッド)のなかまです。ややこしいことに、カリン(バラ科)の材木も光沢のある赤褐色で美しいことから、床柱などの家の建材に用いられます。この両者は似ている材ということで混同して同じ名前が与えられたようです。

    2.薬用植物としての「カリン」

    カリンの生薬名を「木瓜(もくか)[日本薬局方外生薬規格による]」としていることから、ボケ(木瓜)と混同することがあります。一般にはボケのことを「木瓜」と呼ぶので、薬の原料がカリンなのかボケなのか字面だけで判断すると間違えの元。もっとも、どちらも薬効は同じなので、大きな問題はないのかもしれません。また、台湾では、「木瓜」はパパイアのこと。ところ変われば品変わるのでご注意下さい。

    3.「カリン」と「マルメロ」

    諏訪地方(長野県)に旅行に行くと、カリンの砂糖漬けがお土産として売られています。このカリンは実はマルメロ。マルメロは中央アジア原産で、日本には17世紀ごろにポルトガルから伝来したとされています。見た目はカリンとよく似ていますが、マルメロの果実には白い毛がびっしりつき、洋ナシ形であることがわかりやすい区別点です。西洋カリンと呼ばれることもありますが、これはメドラ―と呼ばれる別属の植物の呼称です。

     実のところ、マルメロは欧州ではカリンよりもよく知られた植物です。起源1世紀に古代ローマの博物学者プリニウスによって書かれた「プリニウス博物誌」では生食できる栽培種としてマルメロが取り上げられており、もっと古くから流通していたようです。また、マルメロの砂糖漬けはマーマレードの語源(ポルトガル語でマルメラーダ)にもなっています。

     さて、問題の諏訪のカリンですが、当地に伝わった時に、カリンの品種の一つとして広まったことがきっかけのようです。現在でも国内で生産されるマルメロの85パーセントは長野県産が占めています。

    マルメロの果実