今日の植物公園:オシロイバナ
広島市植物公園ブログ
2021/09/02

今日の植物公園:オシロイバナ

 みなさん、こんにちは。

 「今日の植物公園」のネタ探しをしている時に、カスケードに飾っているオシロイバナに目がとまり、いろいろな昔の思い出がよみがえってきました。今回は、本日の執筆者の思いを交えながら、オシロイバナについて記したいと思います。

昼のオシロイバナ

 上の写真は、午後1時頃のオシロイバナの様子です。花は咲いていません。

 実は、筆者の子供のころの記憶として、夏休みのラジオ体操の時に咲いている花をむしって、蜜をすったということがあります。そんなわけで、長い間、オシロイバナは日中に咲くものだと思い込んでいました。

 しかし、何年も前の事ですが、夜間開園で紹介できる植物を探している時に、「オシロイバナは夜に咲く」ことを知りました。その時は衝撃の事実としてとらえたことを覚えております。

夜のオシロイバナ

 上の写真は、夜間開園時(19時半頃)のオシロイバナの様子です。オシロイバナは夕方から開花し、翌日の午前中に花を閉じるのです。

 さて、オシロイバナにまつわる疑問がもう一つありました。

 筆者は、かつて園内の「花の進化園」を担当していた時期があります。花の進化園は、植物の進化の道筋をお客様に理解してもらうために、古い時代に発生した(原始的な)特徴を持つ種類を入口側に、後になって発生した(新しい)特徴を持つ種類を奥の方に配置したエリアです。進化の道筋の根拠として、今の花の進化園は、最近主流になっているDNAの情報に基づいて整理した「APG分類体系」に従って植栽位置を決めていますが、当時は植物の外部形態に基づいて整理したものの中で主流であった「新エングラーの分類体系」に従って植栽位置を決めていました。

 さて、新エングラーの分類体系では、花が咲く植物を、まず大きく裸子植物と被子植物とに分け、被子植物を双子葉植物と単子葉植物とに分けています。さらに、双子葉植物を花弁(花びら)が合着して少なくとも根元部分が筒状となる合弁花植物を集めた「合弁花類」と花弁がバラバラになっている離弁花植物が主になって構成されている「離弁花類」とに分け、「合弁花」のほうが「離弁花」よりも新しい特徴だとしています。

 オシロイバナが含まれる「オシロイバナ科」ですが、新エングラーの分類体系では「離弁花類」に含まれています。しかし、どう見ても花は筒状なので、合弁花なのですね。その当時、ずいぶん悩んだ末、「こんなものも中にはある」というような認識で自分なりに納得していたような気がします。しかし、この度、展示物に添えられている解説文に「花弁はなく、そのように見える部分は萼(がく)です」という記述があり、改めて調べ直してみました。

 調べたところ、園芸植物大辞典(小学館)のオシロイバナ属の項によると、「花は花冠を欠いており、萼が色づいて発達し花冠状となっている。基部にある緑色の萼状のものは総苞(そうほう)で5深裂する。」とあります。つまり、筒状の萼だけがあり花弁は無く、形態的に離弁花と言える決定的な情報がありません。

オシロイバナのつぼみの構造

 オシロイバナ科には、有名どころとして、ブーゲンビレアが含まれています。

ブーゲンビレアの花

 ブーゲンビレアも同じような花のつくりをしており、ひらひらした写真ではうすピンク色の部分(赤や黄色、白などの品種があります)が苞、その中の白いラッパ状のものが萼です。やはり花弁(花びら)は無く、離弁花と言える決定的な情報がありません。

 なお、新エングラーの分類体系では、オシロイバナ科はナデシコ科やツルナ科などと同じアカザ目に含まれています。アカザ目は「離弁花類」に含まれているので、その結果としてオシロイバナ科も離弁花類に含まれています。また、新エングラーの分類体系では、「花弁も萼も無いもの」や「花弁がないもの」は「花弁と萼の両方があるもの」よりも原始的であるとしており、「離弁花類」に含まれています。このような事から「オシロイバナは花弁が無く、萼は筒状だが、新エングラーの分類体系では『離弁花類』に含まれている」と割り切って考えるのがよさそうです。

 ところで、最近主流の「APG分類体系」では、「合弁花類・離弁花類」という考え方は無くなっています。新エングラーの分類体系とは、分類の根拠とする情報がかなり違っており、科が大きく変更になっている例が多数あります。30年くらい前に分類を学んだものとしては新たに色々と勉強しないといけないことがたくさんあります。