今日の植物公園:見ごろの万葉植物
広島市植物公園ブログ
2021/09/28

今日の植物公園:見ごろの万葉植物

 万葉集は現存する最古の和歌集です。万葉集には約4500首の歌が収録されていますが、その約3分の1の約1500首は植物を詠むか、植物と関係のある歌となっています。

 これら万葉集の歌に詠み込まれた植物を「万葉植物」と呼ぶことがありますが、最も多く詠まれたハギやウメをはじめとして約160~170種類があるとされています。これらをみると、野の植物、山の植物、海辺の植物、路傍の植物、庭園の植物と非常に幅広く、万葉の時代の人々の心に植物が与えた影響の大きさがうかがえます。

 植物公園の園内では、100種類程度の万葉植物を観察することができます。園内の植物には植物名などを記載したラベルはありますが、万葉植物の記載はしていませんので、万葉植物をまとめた書籍等をぜひお持ちください。

以前の展示風景「万葉の植物写真展、2002年」

以前の展示風景(万葉の植物展示、2010年)

 植物公園では、以前に「万葉の植物写真展(2002年)」や「万葉の植物展示(2010年、平城京遷都1300年記念として)」など、万葉植物に特化した企画展示を開催したこともあります。俳句や短歌などに親しまれる方を中心に興味関心の高いテーマなので、また機会があれば特集できればと思っています。

 さて、今日の植物公園では、今が見ごろの万葉植物を5種類紹介します。万葉植物には樹木や作物など、観賞植物以外のものが多く含まれるのですが、今回は花が美しい物や実を観賞できるものなどから選びました。

1.ケイトウ(大温室前花壇)

ケイトウ(ヒユ科) 令和3年9月27日撮影
  • 和名:ケイトウ
  • 学名:Celosia argentea L.
  • 万葉名(古名):韓藍(からあい)
 ケイトウ(鶏頭)は秋の花壇を代表する花です。万葉の時代には、観賞用ではなく染料植物として、原産地の熱帯アジアから中国・朝鮮半島を経由して伝わったことから、「韓藍(からあい)」の万葉名がつけられています。

2.イタドリ(花の進化園ほか)

イタドリ(タデ科) 令和3年9月27日撮影
  • 和名:イタドリ
  • 学名:Fallopia japonica (Houtt.) Ronse Decr. var. japonica
  • 万葉名(古名):壱師(いちし)*
注*:壱師(いちし)は万葉集では1首しか読まれておらず、イタドリのほかに、ヒガンバナ、ギシギシ、イタドリ、イチゴ、エゴノキなどの植物であるとする諸説があります。
 イタドリは 荒れ地や土手などによくみられる植物で、春先にタケノコのように伸びた茎は山菜として食べられます。シュウ酸が多く含まれるので、食べすぎには注意が必要です。

3.アサザ(花の進化園)

アサザ(ミツガシワ科) 令和3年9月27日撮影
  • 和名:アサザ
  • 学名:Nymphoides peltata (S.G.Gmel.) Kuntze
  • 万葉名(古名):阿邪左(あざさ)
 アサザは浅い湖沼に生育する水草で、花は午前中に咲き、午後にはしぼみます。若葉は食べられることから、イヌジュンサイやハナジュンサイと呼ばれることもあります。

4.ヒオウギ(花の進化園)

ヒオウギ(アヤメ科) 令和3年9月28日撮影
  • 和名:ヒオウギ
  • 学名:Iris domestica (L.) Goldblatt & Mabb.
  • 万葉名(古名):烏玉・烏珠・黒玉・奴婆玉など(ぬばたま)
 ヒオウギは山野の草原に分布する多年草で、橙色(~黄色)の花が夏に開花します。花後にできる黒い実が「ぬばたま」と呼ばれ、暗い、夜、月などにかかる枕詞として万葉集では詠まれています。

5.ツユクサ(園内各所)

ツユクサ(ツユクサ科) 令和3年9月28日撮影
  • 和名:ツユクサ
  • 学名:Commelina communis L.
  • 万葉名(古名):月草・鴨頭草(つきくさ)
 ツユクサは道端や草地に普通に見られる一年草。植物公園内では栽培はしていませんが、各所に野生化しています。この花の汁を衣に擦り付けて染めたので「つきくさ」と呼ばれた、という説があります。