今日の植物公園[6月2日号]:シャンシャン(杉山)
広島市植物公園ブログ
2021/06/02

今日の植物公園[6月2日号]:シャンシャン(杉山)

本日の話題:日本と中国の杉山(シャンシャン)


 少し前になりますが、中国の報道官が、パンダの香香(シャンシャン)と当時の杉山事務次官(杉山:シャンシャン)を聞き間違えたことがニュースになりました。中国語の発音が似ていることが要因の笑い話でしたが、今日はこの話題から派生して、日本と中国の「杉(シャン[Shān])」について取り上げたいと思います。

日本のスギ

杉並木(花の進化園) 令和3年6月2日撮影
  • 和名:スギ
  • 科名:ヒノキ科
  • 学名:Cryptomeria japonica (L.f.) D.Don
  • 原産地:日本(青森県~鹿児島県[屋久島])
 植物公園では、花の進化園と日本庭園の奥にまとまった杉並木があります。今では花粉症の原因植物として疎まれることも多い樹種ですが、生長が早く、まっすぐ伸びることから国産の建築材として重用されてきました。身近な用途としては、葉に油分が多いことから、風呂の焚き付けに向いています。

 日本中どこに行っても、スギ林が見られるのは、戦中から戦後復興期にかけて、木材生産のために広葉樹の天然林を大量に伐採し、その跡地に経済的価値の高いスギやヒノキなどの針葉樹を国策として植林したことによります(拡大造林政策)。

 本来の自生のスギはどこでも見られるものではなく比較的珍しいものです。屋久島の屋久杉や、奈良の吉野杉などが天然林として有名ですが、広島県周辺では、中国山地のブナ帯に点在しており、廿日市市吉和の天然林は八郎杉として知られています。

スギの球果 令和3年6月2日撮影

中国のスギ

コウヨウザン 令和3年6月2日撮影
  • 和名:コウヨウザン(広葉杉)
  • 科名:ヒノキ科
  • 学名:Cunninghamia lanceolata (Lamb.) Hook.
  • 原産地:中国・台湾・ベトナム
 中国で杉というと、コウヨウザン(広葉杉)のことを指します。針葉樹園に植えた株は15mを超える高さまで大きく伸びており、見ごたえがあります。材木としてはスギよりも強い強度があり、”ポスト杉”の造林樹種として広島県の林業界で注目されています。

コウヨウザンの葉 令和3年6月2日撮影

 コウヨウザンの葉の先端は鋭くとがっており、触ると刺さるほど痛く、しっかりしています。この細長い葉は、1枚ずつ落葉するのではなく根元からまとめて枝ごと落ちるので、株の周囲には長い落枝が散らばっています。

コウヨウザンの雄花跡(花粉は出し終わり) 令和3年6月2日撮影

昨年のコウヨウザンの球果 令和3年6月2日撮影

 コウヨウザンの球果は500円玉サイズで大きく、ヒマラヤスギの球果(シダ―ローズ)のようにクラフトに使えそうです。雌雄同株で、春に咲いた雌花は10月頃に熟します。

日本と中国の「杉(シャン[Shān])」の呼び名

 日本と中国は同じ漢字文化圏ですが、地理的には離れており、今回の杉のように中国と同じ植物が日本に自生していないこともあります。当てはめられる漢字がない場合、先人は日本独自の漢字(国字)を作る工夫をしており、榊(サカキ)や柾(マサキ)がその一例です。スギの場合も、椙(スギ)の国字が作られましたが、どういうわけか定着せず、中国でほかの植物(コウヨウザン)を指す杉の漢字が使われるようになりました。

 ここまでの話は日本側からの視点に立ったもので、中国では日本の杉のことを考える必要がないわけですから、コウヨウザンこそ本物の杉(シャン)だとなるわけです。後から、日本の杉を区別するために、中国語では日本の杉を柳杉(リューシャン)と呼ぶようになりました。このように基準にする植物が変わることで、同じ漢字を使っていても日中で別の植物を指し示すというちょっとややこしいことになっています。
  • 日本と中国の杉の呼び方まとめ
    • 日本 杉(スギ)⇔広葉杉(コウヨウザン)
    • 中国 杉(コウヨウザン)⇔柳杉(スギ)

おまけ:針葉樹園の様子

 コウヨウザンが植わっている針葉樹園では、世界の針葉樹を見本展示しています。建材として有名なベイマツや悠仁親王殿下のお印としても知られるコウヤマキなども見ることができます。また、北米原産のテーダマツの大きな松ぼっくりは本園正面入り口の売店で販売していますので、ぜひお買い求めください(現在は臨時休園中です)。

針葉樹園の様子 令和3年6月2日撮影

針葉樹園の様子(パノラマ:横長写真) 令和3年6月2日撮影